最高裁判所第二小法廷 昭和33年(し)95号 決定 1959年8月03日
少年 A(昭一五・一〇・一六生)
少年 B(昭一七・四・五生)
少年 C(昭一七・八・四生)
主文
本件再抗告を棄却する。
理由
本件再抗告の趣旨は末尾に添えた別紙書面記載のとおりである。
所論は違憲をいうけれども、実質は原審がした本件抗告申立書には抗告理由の記載なく、少年審判規則四三条に違背し、抗告は不適法である旨の抗告手続に関する正当な判断を独自の見解に立つて非難するに過ぎず、所論は前提において理由がない。(昭和三四年(し)第一四号同年四月一三日第三小法廷決定参照。)
よつて少年審判規則五三条一項に則り裁判官全員一致の意見により主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)
別紙(附添人弁護士の再抗告理由)
原決定は法令に基かず本件第二審抗告申立に手続違背があるとして抗告を棄却したもので、本件少年等の第二審裁判を受ける権利を奪つた憲法違反がある。
原審の抗告棄却決定の理由は「抗告申立書には抗告の趣旨を簡潔に明示しなければならない(少年審判規則第四三条)のにも拘らず、本件抗告申立書には抗告の理由は追つて申述する旨を記載しただけで、抗告申立後二〇日以上を経過した今日まで抗告の理由につき何等申述するところがないので、この点において本件抗告は手続違背の違法があり、到底棄却を免れない」とのことである。
しかしながら抗告申立期間は決定の告知即ち言渡のあつた日の翌日から二週間以内であり、且決定書の謄本等は送達されないのであるから、右期間満了の間際に附添人の受任があつたときなど附添人は一件記録の調査は勿論抗告理由の確定が困難な場合があり、各少年本人及び保護者は言渡を受けたのみで、理由を判然としない場合もある。従つて「抗告申立書に抗告の趣旨を簡潔に明示しなければならない」との規定は訓示的規定と解すべきである。
而して原決定は「抗告申立後二〇日以上を経過しても抗告理由の申述がないので違法である」とゆうが、かような趣旨の規定は存在していないのである。少年法における抗告には抗告の趣意書に関して前掲以外の規定はなく、刑事訴訟法上の控訴とは自ら性質を異にするものではあるが、控訴の趣意は控訴裁判所が訴訟記録の送付を受けてから控訴趣意書を差し出すべき最終日を指定しこれを弁護人に通知した書面の送達した日の翌日から起算して二十一日以後の日でなければならないことになつている。本件において原決定の言う二〇日以上とゆうは抗告申立後のことであり、控訴における訴訟記録送付通知書送達日以後二十一日後となるのと重大な差違を生ずるのである。
本件において第一審保護処分決定がなされたのは昭和三十三年十月十三日、抗告申立があつたのは同月二十七日、一件記録が第二審である原審に送付されたのは同年十一月十二日、原審の抗告棄却決定がなされたのは同月十七日であることは本件記録上明白である。而して少年A、同B、同Cの各保護者並に附添人は抗告申立後被害者及その親達との間の示談、慰藉金支払、町内多数者の嘆願書入手及右各少年の自宅その他の環境調整、就職就学の決定等に奔走して各少年の保護観察に適するよう尽力し且附添人において第一審保護処分決定(中等少年院へ送致)の検討と記録の精査をなし、一件記録が原審に送付されるまでに準備を完了して抗告理由を追究しようとし、漸く記録が原審に送付され、他方被害者等との示談が成立し慰藉金受領書等の関係書類が入手されたとき数日を出ずして突如原審は前掲の理由により抗告棄却の決定をしたのである。その間法規上の根拠はないが、抗告理由の追完について何等の通知催告もなく、注意を促されたこともないのである。
結局本件少年等を中等少年院に送致した第一審決定に対し重大な事実の誤認及該決定の処分の著しい不当を理由として抗告し、各少年を保護観察に付することの当否を裁判し賜わらんことの権利を奪われたものに外ならないと思料するので茲に再抗告に及ぶ次第である。
以上